Adagioな日々

ワインづくり奮闘記 そしてときどきピアノ

亜硫酸を使わないワインの醸造(2)だけど亜硫酸の話

本日の気象データ
天気:晴れ時々曇り、夕方激しい雨 降水量:5.0 mm(最大10分間雨量:3.5 mm)
最低気温:15.3℃ 最高気温:26.4℃  平均気温: 19.8℃ 日照時間:393分(原村アメダス

今日の作業は誘引、主にわき芽を落とす作業。昨日は雨の影響でブドウ樹を触ることができなかったので、かなり伸びていました。

さて、引き続きアルノ・イメレ著『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』を参考に健全なワイン造りについて検討したいと思います。

この本、亜硫酸を使わないと謳っているのに、全頁の3分の1が亜硫酸についての記述です。しかし、亜硫酸については多くの興味深いことが書かれています。特に意外だったのは、「天然SO2」についての記述でした。天然SO2とは、酵母が発酵する過程で生成するSO2です。天然SO2と添加したSO2は基本的に同じ。ならば、添加しないで「天然SO2」に抗酸化作用を期待すればいいじゃないか…と思ってしまいそうです。しかし、

《天然SO2》の生成を避けることだ。それは外生のSO2に置き換わることはできない。

ですって‼

多くの培養酵母は、この「天然SO2」を生成しない選別された酵母であるそうです。逆に言えば、「天然SO2」を生成するのは自然酵母を利用した場合が多いということです。

どうして「天然SO2」が生成されるのでしょうか?この本には2つの可能性が記載されています。

ひとつは硫黄を含む農薬の添加に由来する可能性。もうひとつは若干複雑なので、まずは引用します。

栄養物の足りないマストでは、酵母は含硫アミノ酸に窒素を求めざるをえず、副産物として亜硫酸を後に残す。

マストとは、発酵前及び発酵中のブドウ果汁/もろみのことです(英語)。酵母が発酵する際にブドウ由来の窒素を栄養素として活用するのですが、ブドウの中に窒素分が少ないとブドウの中にある含硫アミノ酸から窒素を得ようとします。その結果、含硫アミノ酸から亜硫酸ができるのです。つまり、自然酵母=天然SO2を生成するというのは必ずしも正しくなく、窒素に乏しいブドウ果汁だと天然SO2を生成するということになります。

では、なぜ「天然SO2」は添加したSO2に置き換わることはできないのでしょうか?同じSO2なのに…。これについてはこのように記述されています。

酵母はSO2をつくるときに同時にそれに結合するエタナール(アセトアルデヒド)をつくり、SO2を不活性化するからだ。それは単に乳酸菌の活動を遅らせる効果があるだけで、抗酸化効果はない。

結局、「天然SO2」は体に良くない成分は残しつつ、SO2を添加する最大の目的である抗酸化の効果がないということになります。この本の著者の結論は、

亜硫酸の生成は酵母の選択と彼らの「栄養物」の管理を介して避けた方がよい

というもの。要は培養酵母を使ったり、窒素分を多く含んだブドウ果実/果汁を使うか、または醸造中に窒素を添加することによって管理すべきということになります。培養酵母を使わず、窒素の添加をしない選択をするのであれば、ブドウの果実に窒素を十分に含ませてあげられるよう栽培するという一択になってしまいそうです。

もうひとつ亜硫酸に関して興味深いことがありました。それは、フランスのラベルへの表示の仕方です。日本では添加物を表示する決まりになっているので、亜硫酸を添加しなければ、つまり醸造中に生成された「天然SO2」がいくら含まれていようとラベルに表示する必要はありません。しかし、フランスでは10mg/L以上の亜硫酸が含まれていれば、たとえそれが添加されたものでなく、自然に生成されたものであろうと表示義務があります。なので、亜硫酸を添加しないように醸造するならば、自然に生成される亜硫酸の量を10mg/L以下にしなければ、製品としての付加価値を高めることはできないということになります。消費者の側から見れば、毒性が同じならばフランスの表示の方が安心して飲むことができますね。

話が逸れましたが、以前、窒素の役割について、別の角度から書いています。その時の記事はこちらから。

pooh-chan-51.hatenablog.com

 

亜硫酸を使わないワインの醸造(1)プレリュード

本日の気象データ
天気:曇り時々雨 降水量:1.5 mm 最低気温:15.8℃ 最高気温:19.3℃ 
平均気温: 17.3℃ 日照時間:0分 (原村アメダス

今日、早朝雨が降った後、8時ごろには雨が止んでいたので、いつものように誘引作業をし、少しツルをハサミで落とす作業をし始めたものの、10時半ごろから雨が降り始めたので中断。午後は別の畑でブドウ樹の根元の草刈りをし、早めに作業終了。相変わらずカマで草刈りをするのは得意ではないです。というのも、刃がブドウ樹にあたるのではないかと思うと遠慮がちにしか刃を動かすことができないのです。そのうち、コツをつかむのでしょうか…。

昨日は少し雑記的な話を書きましたが、今日はその延長で健全なワインを造るためにどうしたらいいかを考えたいと思います。先日ご紹介したアルノ・イメレ著『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』を主に参考にしています。あれ?もう亜硫酸使うことにしたんじゃなかったっけ?という声が聞こえてきそうです。ごく少量の使用を検討していますが、この本の訳者まえがきには、いくつか興味深い言葉が並んでいます。

カビ臭や動物臭がするのが「自然派ワイン」ではない。それはただの欠陥ワインである。

やっぱりそうだよね…。

まずはすべての工程を洗い直したうえで、亜硫酸を使わずに健全なワインをつくるにはどうすればよいかを考え、道を逸れたときの対応も考慮に入れたうえで実行されなければならない。その根底にあるのはワインの味覚、官能面の品質同様に、消費者への健康面への配慮である。それが達成できて初めて革新的なすばらしいワインとなる。

やっぱりどんなリスクがあるかを知って、対応策を検討しておかないとダメだよね。

(前略)亜硫酸を使う醸造家にとっても健全なワインをつくるための様々なアイデアを本書が教えてくれる(後略)

亜硫酸を少量使うにしても、良いワインを造るためには参考になりそうです。しかも白ワインの醸造については、ブドウのタイプ(テルペン・タイプ、ソーヴィニヨン・タイプ、シャルドネ・タイプ)ごとに手順が書かれているという優れもの。これはじっくり読まねば、ということで今後数回にわたってこの本の中で自分の関心のあるところを部分的にご紹介しつつ、どういうワインを造るかを検討していきたいと思います。ただ、あくまでも部分的なご紹介なので、ご関心ある方はぜひ、実際にこの本を手に取って読まれることをお勧めします。

というわけで、今日はプレリュード。まずは搾汁機について考えてみます。

醸造設備はどんどん進化しています。でも、ワインの醸造でイメージする搾汁機と言えばこれじゃないですか?

楽天市場より

木製の垂直式搾汁機(バスケットプレス)と呼ばれるもので、シャンパーニュでよく使われているものです(実際にはこんな小さなものではなくて巨大なバスケットプレスが使われています)。日本のワイナリーに行って醸造設備を見せてもらうと、インテリアの一部としてこのタイプのバスケットプレスがショップやレストランに置かれていることはあります。でも、実際に醸造で使われているのはステンレス製の水平式搾汁機であることが多いです。ヨーロッパでも最近の主流は水平式搾汁機だそうです。ただ、『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』によれば、垂直式搾汁機は白ワインにとって利点があると書かれています。

果汁は搾りかすの層を通ることで自然に濾され、かなり澄んだ状態になる。同時に、果汁の長い道のりと長時間にわたり圧力下に置くことで、ブドウをすりつぶすようなこともなく効果的にブドウのアロマ成分が抽出される。よくバランスが取れ十分なほど澄んだ、ステロール豊かで香りの前駆体やフェノール化合物に恵まれた果汁を得ることができる。

水平式搾汁機の場合は、過剰な澱が入るので、デブルバージュ(清澄)が必要になります。デブルバージュすると今度は果汁が澄みすぎてしまうことも。加減が非常に難しいので、上手にデブルバージュできるかどうかがワインの品質に大きく影響しそうです。また、果汁が澄みすぎてしまうと自然酵母だと発酵がうまく進まないケースがあるので、培養酵母を添加する方が安心…。

なるほど、醸造設備はその後の醸造工程やどういうものを添加するかといったことにも影響するのか…。一方で、酸化のリスクについてはどうなるのだろうかという疑問が残ります。特に白ワインの場合は、極力酸化させないように醸造するものじゃないのかな…。もう少しこの本を読み進めてみないと、どんな設備にするかの結論はでなそうです。

ちなみに、プレス(圧搾/搾汁)のプロセスについては、このサイトに興味深いことがたくさん書かれています。

firadis.net

自然派ワインはまずい?

本日の気象データ
天気:雨のち曇り 降水量:15.5 mm 最低気温:15.1℃ 最高気温:18.4℃ 
平均気温: 16.7℃ 日照時間:0分 (原村アメダス

今日の千曲川ワインアカデミーの講義は、ワインの香りを感じるしくみについてでした。様々な角度から匂い/香りについて説明がありました。テイスティング醸造に応用できるだけでなく、どんなワインを造りたいかを考えるうえでも参考になりました。香りやテイスティングについても、追々復習を兼ねて書きたいと思います。

ところで、今日の休憩中に同期の受講生とこんな雑談をしました。

「先日、自然派ワインの専門店で勧められたフランス・ラングドックの自然派ワインを買って飲んだんだけど、とんでもなく臭くて、まずくて飲めたもんじゃなかったのよ」

私は何度かラングドックのワインを飲んだことがありますが、それが自然派なのかどうかは知らずに飲んだものの、あまり美味しいワインに出会ったことがありません。きっと安いワインを買ってるからだと思っていました。絶対によい生産者はいるはずなので、ラングドック=まずいと言っているのではありませんが、この友人もラングドックのワインで美味しいワインにはまだ出会っていないと言います。

友人曰く、ラングドックは自然派ワインをたくさん生産していることで有名なのだそうです。ENOTECAのホームページでも、

有機栽培が多い土地としても知られており、フランスの有機栽培の1/3、世界の有機ブドウ畑の7%がこの土地に集まっています。

と紹介されています(有機栽培=自然派ワインではないけれど)。私はこれまで、ラングドックは少し暖かいから、最近の気候変動の影響を受けて、美味しいワインができなくなっているのかもしれないと思っていました。しかし、それと「臭くてまずい」というのはちょっと違うので、

「それ、瓶の中で劣化しちゃったんじゃないの?」

と聞くと、

「信頼できる自然派ワインのお店だから、変なワインは売ってないと思うし、保管状況も悪くないはずで、すぐに飲んだから劣化じゃないと思う…」

と。亜硫酸を使っていなければやっぱり酸化しやすいし、何も添加せず濾過もしなければ、ワインの中に残っている微生物が、残糖を餌にして瓶内で育って、悪さをするリスクもあります。瓶詰したときにはよい香りで美味しかったかもしれないけれど、お客さんが飲むまでにどういう輸送・保管がされるかなどによってもワインの状態が変わります。つまり、作り手側は、自分のワインが飲み手に臭い・まずいと思われているとは思っていない場合もあるということです。

もちろん、添加物が入ったワインでも劣化はするけれど、天然酵母無添加、無濾過であれば、そのリスクはずっと高まりますし、場合によっては発酵途中でのトラブルが、不快な臭いなどになって現れることもあります。自然派ワインがまずいという印象を多くの飲み手が持ってしまうと、自然派ワイン=下級品みたいな位置づけになってしまうので、まじめにきっちりと造られた美味しい自然派ワインまで、世の中で評価される機会を失うことになります。

この話をしていて、昔働いていた職場の飲み会で、将来ワインを造りたいなぁと話したとき、上司が「俺は体に悪くても(添加物が入っていても)美味しいワインが飲みたい」と言ったのを思い出しました。確かに美味しくなければ意味がない。今回の雑談を経て、醸造、瓶詰に至る過程でのリスクとその回避方法/リカバリー方法について一度調べて整理しないとなぁと思いました。なんだか考えることや整理することがどんどんたまるばかりで、なかなかクリアになっていきませんが、自分のワインを造るまでにはなんとかクリアしたいと思ってます。

ブドウの中の窒素の役割

本日の気象データ
天気:曇り時々晴れ 降水量:0.0 mm 最低気温:12.9℃ 最高気温:23.5℃ 
平均気温: 18.2℃ 日照時間:242分 (原村アメダス

今日は千曲川ワインアカデミーの講義日でした。内容は白ワインの醸造。講義は完全醸造モードですが、まだ自分の中で何をどこまで許すのかのラインができていません。でも、今日のお話の中で一番心に響いた言葉は、醸造中に何かを加えたり、介入したり、あるいはブレンドしたりすることで美味しいワインを造ることが可能だと思ってブドウを栽培するのと、そういったことができないと思って栽培するのとでは、できるブドウが違う(講師の先生がおっしゃった言葉のままではなく、私が理解した言葉です)という点でした。収穫したブドウをつぶさないように収穫用のかごや容器の形状にも気を遣わなければいけないのか…と新たな発見もありました。醸造の話なのですが、やっぱり美味しいワインを造るには、よいブドウを栽培することが重要だというところに戻ってきました。

ブドウ栽培を考えるうえで、醸造の観点から一つ重要な点に気づくことができました。それが、ブドウを発酵させるためには酵母やその他の微生物に働いてもらう必要があり、そのための栄養素がブドウ果汁の中に必要だということです。とりわけ、ブドウ果汁に含まれる窒素の役割が重要だということを知りました。いや、その情報に触れたのはもっともっと前のはずなんですが…。実は半年以上前に読んだディヴィッド・バード著『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』の中にも書かれていました。漫然と読んでいると頭に残らないものですね。以下内容は、同著より。

これまでの記事の中には、酸化防止剤として亜硫酸とかアスコルビン酸については触れました。そういったものを添加する以外にも、醸造中の酸化を防止するために窒素ガスをタンクの中に入れたりすることもあります。ただ、この窒素(N2)と酵母が栄養素として使う窒素は別のものです。後者は窒素と呼ばれていますが、より厳密に言うとアンモニウム化合物(NH4)の形をした結合窒素です。

酵母は自らの細胞内でアミノ酸とタンパク質を生成して増えるのですが、その際にこの窒素が栄養として必要になります。発酵中に酵母が必要とする栄養が不足すると、酵母はストレス状態になって硫化水素を作り、不快な臭いを発生させます。また、窒素以外にも酵母を増やすために大切な栄養素としてはチアミン(ビタミンB1)があります。

こういったものは基本的にブドウ(果実)に含まれています。なので良いブドウを作ることが必要なのですが、ブドウはこういった栄養素を土壌から吸い上げたり光合成をしたりして自分の果実の中にため込んでいきます。窒素が土壌になければ吸い上げることができないので、ブドウは窒素不足となります。

足りない場合はどうするか?そうです、添加することになります。EUの基準では、アンモニウム化合物の添加は一定量(上限1g/L)認められており、窒素以外にもリン酸二アンモニウムや硫化アンモニウムを添加することで改善可能なのだそうです。ちなみにチアミンの添加も認められています(上限0.6mg/L)。

しかし、なるべく添加物を加えないでワインを造ろうと思うなら、足りなくならないようにブドウを栽培するに限ります。そこで疑問に思うのが、本当にブドウ栽培にはやせた土地が向いているのか…という点です。これに関して、最近、ドイツの面白い記事を見つけたので、それをベースに検討したいと思います。でも今日はもう長くなってしまったので、また後日。

 

 

添加物は必要か

本日の気象データ
天気:朝まで雨のち曇り 降水量:24.5 mm 最低気温:12.9℃ 最高気温:24.9℃  平均気温: 17.5℃ 日照時間:166分 (原村アメダス

今日の作業は、誘引、除葉と不要なツルや花穂を落とす作業の続き。それからヴィンヤードを移動して、草刈り後の草の除去。

これまでに、ワインに添加するものとして、亜硫酸と培養酵母について検討しました。それ以外に添加物があるのか?と思われるかもしれません。あるんです。色々と。ラベルには書かれていないものもあります。

醸造資材カタログというのを見ると、培養酵母を使いたくなる気持ちがよくわかります。たくさんの種類の酵母がリストになっていますが、ある製品を使うとブルゴーニュのクラシックな白になるとか、ボルドーの赤!とか、魅力的な言葉が並んでいます。さらに、発酵補助剤、酵母発酵助成剤、酵素、おり下げ剤などなど。でも、ここはブルゴーニュでもボルドーでもないので、その味を再現することにどういう意味があるのかと私は思います。ただ単に安定した発酵のために利用しているケースが多いでしょうし、考え方は人それぞれなので、培養酵母を使うことを否定するものではありません。また、実際培養酵母が使われているワインを飲んでとても美味しいと思うものはたくさんあるので、飲むことも拒否していません。

ディヴィッド・バード著『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』には、果汁調整と添加物にそれぞれ1章ずつ割かれています。順番的には、果汁調整の話をしてから添加物の話をした方がいいのかもしれませんが、これまでの検討過程で何を添加するかしないかを考えてきたので、その流れのまま添加物について検討したいと思います。

と言いながら、最初にこの本の果汁調整の章の冒頭に書かれている文章を少しご紹介したいと思います。

醸造家(中略)たちは、天候に恵まれない年にはブドウ果汁のバランスを保つために、さまざまな醸造工程においてあれこれと手を加えたくなる衝動に駆られてきた。だが、自然は何が最良かを驚くほど知っている。人間は、自然がつくり上げたものを調整できるということを発見したが、それには限度があり、自然なバランスから遠ざかってブドウが持つポテンシャル以上のことを試みれば、必ずワインに悪い影響となって返ってくる。

この文章に続き補糖や補酸・除酸によるデメリットが紹介されています。果汁調整は糖や酸を加除するだけでなく、色々な手法があるので、また別途検討したいと思います。

また、同じ本の中から添加物の章の冒頭の文章をご紹介したいと思います。

きちんと丁寧に造られたワインは安定しているので、酸化と微生物の繁殖を防ぐための添加物以外は必要ない。ワインによってはそれすら必要としないものもある。

なるほど。添加されてもワインに残っていない加工助剤はラベルに記載されていないので、今回は加工助剤はとりあえず除いて、(ヨーロッパで)ラベルに記載義務があるものについて検討します。

まず、どんな添加物があるか、その目的とともに列挙してみます。
二酸化硫黄(亜硫酸):酸化防止
アスコルビン酸(ビタミンC):酸化防止
ソルビン酸:発酵停止
メタ酒石酸:酒石の結晶化防止
クエン酸:鉄滓(ワインに含まれるリン酸と鉄の反応による不溶性化合物)の発生防止
硫酸銅・塩化銀:還元臭の除去
アカシア樹脂(アラビアガム):色調変化の遅延
ペクチン分解酵素:搾汁効率の向上、デブルバージュ(清澄)の作業効率の向上
β‐グルカナーゼ:メンブレン・フィルターの目詰まり防止(灰色カビ病にかかったブドウや貴腐ブドウを醸造に使う場合)
リゾチーム:マロラクティック発酵の遅延・停止、亜硫酸添加の減量

使用目的を見る限り、健全なブドウを使って健全に発酵できれば、そして効率性を重視しなければ、確かに酸化や微生物の繁殖を防ぐための添加物以外は必要なさそうです。我が家にあるワインのボトルを見てみましたが、記載されているのは酸化防止剤として亜硫酸塩とビタミンC、安定剤としてアカシア樹脂ぐらいしかありませんでした。もしそれ以外の添加物の記載があれば、そのワインの醸造過程で問題があったか選果が十分でなかったかを示しているとも言えます。

アスコルビン酸はビタミンCだから、亜硫酸ではなく、体に良いビタミンCを使ったらいいんじゃないかと思いますが、アスコルビン酸は二酸化硫黄(亜硫酸)と一緒に使うことで効果を発揮するもので、二酸化硫黄の代用にはならないそうです。一方、併用することでワインがフレッシュに仕上がるのだとか。

またアカシア樹脂は古代からワインの醸造では使われているそうですが、入れるタイミングを間違えると酒石が結晶化されなくなってしまうという問題があるようです。

そこで、あれ、酒石の結晶化防止と書いてあるメタ酒石酸はなんのために使うの?と思われた方もいるかもしれません。酒石は醸造過程で結晶化されて取り除くものですが(なので醸造過程では結晶化されないと困る)、瓶詰した後に瓶の中で結晶化してしまうと困る(品質にはあまり影響がないですが、異物が混入しているように見えるので、クレームの原因になります)のでメタ酒石酸を使うようです。

添加物を醸造過程で問題が生じたときに使うかどうかですが、問題が生じないように丁寧に醸造することが重要で、最初から使うつもりでいてはいけない気がします。なので、酸化防止剤以外は使用しない方向で進めたいと思います。今回検討しなかった加工助剤はどんな場合に必要なのか、改めて別の機会に検討してみたいと思います。

ワイン講座

本日の気象データ
天気:曇りのち雨 降水量:7.0 mm 最低気温:12.6℃ 最高気温:21.4℃ 
平均気温: 16.8℃ 日照時間:128分 (原村アメダス)その他:梅雨入り

今日の作業は午前中と夕方にわき芽やツルを落とす作業をし、お昼過ぎから2時間は、中学校で実施されているワイン講座のお手伝いに行きました。

午前中は少し日が差す時間もありましたが、お昼ごろからどんよりと雲が垂れ込み、風も冷たくなってきました。今日から今年のワイン講座が始まるのに、天気大丈夫かなと不安でしたが、最後まで雨も降らずに学校中庭で中学生に作業をしてもらえました。

このワイン講座、今年で6年目になるのだそうです。最初の年は2年生が苗を植え、翌年、その2年生が3年生になって醸造までやったそうです。中学生は村の人たちから寄付を募って資金を集め、苗や資材を買って、一生懸命ブドウ畑を整備しました。今では中庭に50本もピノノワールが植えられています。この中庭からは八ヶ岳も見えてとっても素敵でした。

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受講している中学生はひとり1本のブドウ樹を担当します。今年は35人も受講生がいるのだとか。また、学校応援団(このシステムもなかなか面白いんですが、ここでは説明を割愛)からも参加者がいました。中学生は、これから毎日観察日記/作業日記をつけて、週に1回程度、授業で栽培や醸造について勉強しながら、自分のブドウ樹の世話をしていきます。今日はわき芽を取ったり、ツルを切ったりしてもらいました。

このワイン講座、課外授業ではなく、正規の授業のひとつなのです。原村の中学校には「原村学」というカリキュラムがあり、村の産業や魅力を学ぶのだそうです。ワイン以外にもいくつか講座があり、生徒たちは好きなものを選択して受講できるようです。授業が終わった時に、ソーセージ作りの講座担当の先生と少しお話をする機会がありました。

ソーセージは、できたらすぐに食べられるけれど、中学生はワインを飲むことができません。二十歳になって成人式の時に開けて飲むのをみんな楽しみにしているそうです。1期生の生徒たちは今年19歳。来年、最初の生徒たちが醸造したワインがやっと元生徒たちに飲まれます。

天然酵母/自然酵母とは

本日の気象データ
天気:未明まで雨。日中、晴れ。夕方から曇り 降水量:2.0 mm 最低気温:11.2℃ 
最高気温:24.7℃  平均気温: 17.5℃ 日照時間:640分 (原村アメダス

今日は所用のため、作業はお休み。

昨日は、発酵と酵母について考え、ワインを醸造するためにはサッカロマイセス・セレビシエという酵母が必要であること、天然酵母にはそれ以外の酵母も含まれていて、それが味の複雑性を高めている可能性があることなどを勉強しました。

pooh-chan-51.hatenablog.com

今日は天然酵母(自然酵母)について考えたいと思います。

そもそも酵母とは、土の中にもブドウ樹にも、その他あらゆるところに存在しています。ただ、酵母の種類は環境に左右されるので、同じ場所でも年によって違うようです。自然発酵をするということは、ブドウに付着している野生の酵母を発酵の過程で増殖させるということなので、当然ながら健康状態のよい酵母がたくさんいないとうまく発酵させることができないということです。また、様々な種類の、しかも良質な微生物が存在することによって複雑な風味を出すことができます。

ディヴィッド・バード著『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』によれば、「自然発酵でも通常、発酵前のブドウ果汁に二酸化硫黄を添加することで、発酵の邪魔をする細菌を死滅させる。そうしてアルコール発酵を開始する環境が整うと、大量に存在する酵母群が発酵を開始する。しかし酵母群の一部にはアルコール耐性が弱いものがおり、アルコール度数が3~4%に達すると活動を停止してしまう。最後まで発酵を成し遂げるのはサッカロミセス・セレビシエ(サッカロマイセス・セレビシエ)だ。だが、この酵母には畑ごと、さらには収穫年によっても様々に異なる亜種が存在する。かように自然発酵は不安定で予測が難しい側面がある…(後略)」とあります。

結局、最後に残るのはサッカロマイセス・セレビシエなのだけれど、培養酵母のように天然酵母の中に含まれるリスクのある微生物を取り除いたり、特定の風味を出したり生産過程を早めるように調整されていないので、発酵が不安定であることが一番の課題のようです。また『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』に書かれているように、発酵前のブドウ果汁に亜硫酸(二酸化硫黄)を添加するならば、邪魔な細菌はいなくなるので管理は多少しやすくなるかもしれないけれど、ある程度複雑さが失われるのは避けられなそうです。一方、風味のコントロールがしにくいので、複雑さ=単なる雑味になってしまう可能性があることも否めません。

何よりも天然酵母を使う一番の魅力は、その酵母はその畑にしかいない、そしてそのヴィンテージにしかいない酵母だということです。テロワールについて色々議論がありますが、天然酵母を使えば八ヶ岳西麓の味を表現できるかもしれません。また、その年がどんな気候で畑がどんな環境だったのかを表現することもできます。安定した品質を確保することは難しいかもしれませんが、何を表現したいかによっては、天然酵母の方が優れている可能性もあります。ほかの要素も含めて、引き続き検討したいと思います。