Adagioな日々

ワインづくり奮闘記 そしてときどきピアノ

酵母 

本日の気象データ
天気:晴れのち曇り 降水量:0.0 mm 最低気温:10.9℃ 最高気温:24.9℃ 
平均気温: 17.8℃ 日照時間:600分 (原村アメダス

今日はいつもの畑に戻って、誘引、わき芽とツルを落とす作業。そしてまたブログも横道に逸れてしまったけれど、『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』に戻ります。

やっと亜硫酸の話や条件・前提の話が終わって、ワイン造りに到達!と思いきや、そのプロセスに入る前に醸造補助剤の話があります。色々あるのですが、ここでは補助剤と言っていいかわからないけれど、酵母についてのみ検討したいと思います。

この章の副題に「酵母なしにワインはつくれない」と書かれている通り、酵母は必須です。酵母獲得のための3つの方法が説明されています。
1 自然発生的に発酵をスタートさせる
2 酒母を製作する
3 精選された酵母を購入する

自然発生的に発酵をスタートさせるためには、そもそもブドウに条件があって(詳細は省略)、その条件が揃っていないと様々なバクテリアを繁殖させることになり、滅多にうまくいかない、と。ここに面白いことが書かれているので、引用してみましょう。

(自然発生的に発酵をスタートさせるのは)テロワールの発現とワインの食品としての品質をいちばん損なっているやり方なのだ。「自然発生的発酵」の達人たちがテロワールの魅力と呼んでいるのは、アセテートとフェノレ臭とアセトアミドの混じったもので、この方法でつくられたワインは、産地がどこであれどれも似通ったものとなる。

確かにアセテートは酢酸なので、これが優劣になれば、強烈な臭いでテロワールなんて優雅なもんじゃないでしょう。フェノレ臭も然り。

そこで酒母を自分で作って、乾燥酵母の代わりに使うという方法で代替しましょう…ということで、酒母製作プロセスといくつかの注意点が説明されています。この方法は、1番目の方法と違ってテロワールの発現が妨げられるとも食品として低品質だとも書かれていないので、あまり天然酵母を推奨していないこの筆者も認める製法ということなのでしょう。

そして、活性乾燥酵母についてですが、これも興味深いことが書かれていました。ざっくり要約すると、同じ地域に起源をもつ乾燥酵母と自家製酒母を遺伝子解析をしたら同じものだった…という。日本でも山梨大学で日本の自然界にいる微生物から酵母を作っている研究室があるというニュースを見たことがあります。そういう酵母だったら、ひょっとして自分で作った酒母と同じ遺伝子のものもあるかもしれません。ただ、市販されているほとんどのものは海外由来のものなので、この偶然を期待することはできそうにありません。

もう一つ興味深いことが書かれています。それは、活性乾燥酵母を使った場合のワインの味について、

ある種の標準化したものを感じたら、それは酵母の製造元による一般化によるものではなく、醸造の手法の一般化によるものだ。

この点はある程度理解できます。同じ乾燥酵母を使っていると思われるワインが世の中にたくさん出回っているけれど、それぞれ違う味ですし。さらに言えば、たとえ「カリフォルニア発 凝縮した赤に」と宣伝文句が書かれている乾燥酵母を使ったとしても、その酵母が採取された銘醸地のワインの味にならないという話は実際に使用して醸造している方からもよく聞く話です。ワインの味を決定づけるのは、ブドウの品質であることは間違いないですが、醸造手法や技術によってそのブドウが持っている味を引き出せるかどうかが、平坦な味のワインになるかアロマや複雑さを感じる味わいのワインになるかを分けるというのも理解できます。

というわけで、やっと次回から醸造手法の話です。あー、前置きが長かった。

ストレスの少ないブドウ栽培

本日の気象データ
天気:晴れのち曇り 降水量:0.0 mm 最低気温:12.3℃ 最高気温:26.2℃ 
平均気温: 18.9℃ 日照時間:701分 (原村アメダス

今日は作業がお休みだったので、隣町のワイナリーの畑のお手伝いに行ってきました。お手伝いしたのは、来年のバゲットを決めて芽かきをし、残す新梢を誘引する作業です。このワイナリーでは、樹液の流れに従って、どの新梢を来年のバゲットにするかを決めます。この考え方は、SICAVAC著『ブドウ樹の生理と剪定方法』に書かれています。最近の醸造用ブドウ樹の管理方法で、平たく言うと、ブドウ樹そのものの生理を理解し、なるべくストレスをかけないように育てることでブドウ樹を健康にし、病気を防いで長生きしてもらおうという考え方です。

この考え方、醸造用ブドウ栽培の最近のトレンドのようです。環境問題や食や健康に対する消費者の考え方が変わってきたから、栽培についても見直しがされているのでしょうか。それとも、植物(ブドウ樹)の生理に関する研究が進み、よりよいブドウの栽培方法が提唱されるようになったのでしょうか。背景はよくわかりませんが、畑の土づくりや下草の管理、ブドウ樹の生育サイクルにおける人為的介入などについて、ストレスフリーとは言わないまでも、可能な限りストレスをブドウ樹に与えないように育てることでよいブドウができると、これまでにお話をさせていただいた醸造用ブドウ栽培家のほとんどがおっしゃっていて、それを実践されています。

考えてみれば、人間もストレスが多いと汗のにおいが臭くなるとか、がんになりやすいとか、色々言われています。同様に植物もストレスが多いと、よくない成分を生成し、香りが悪くなったり、病気になったりするそうです。

さて、その畑のお手伝い、確かにこの本はアカデミーの副教材的な位置づけで、読みにくいなぁと思いながらも一通り読んだつもりでしたが、いざ、じゃあ、本に書いてあるようにやってみてと言われても、どこを来年のバゲットとして残すべきなのかがよくわからないのです。何度も何度も質問と確認を繰り返し、お手伝いどころか、足手まとい、あるいは私の勉強の場となってしまい本当に申し訳ない気持ちでいっぱいに。ほぼ作業が進まない状況でタイムアップ。もう一度、いや二度、三度と『ブドウ樹の生理と剪定方法~病気を防ぐ樹体管理~』を読み直して、いつか必ずリベンジを…と誓ったのでした。

 

 

亜硫酸を使わないすばらしいワイン造りの前提

本日の気象データ
天気:晴れのち曇り 降水量:0.0 mm 最低気温:13.1℃ 最高気温:29.6℃ 
平均気温: 21.0℃ 日照時間:707分 (原村アメダス

今日、千曲川ワインアカデミーでは醸造プロセスについて、白も赤もそしてスパークリングワインも一通り終わりました。一連の講義を経て強く思ったことはふたつ。ひとつは、どんなワインを造るにしても、よいブドウを栽培して収穫しなければよいワインはできないということ。もう一つは〇〇ありきで考えてはいけないということ。この学びについては、また追々深めていくとして、しばらく横道に逸れていたアルノ・イメレ著『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』に戻って、すばらしいワイン造りについて検討をしたいと思います。

横道に逸れる前はずっと亜硫酸を使わないと言いつつ、亜硫酸のことを検討していました。今回は、『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』の「前提」の話。

この本によれば、大きく2つの前提があります。

ひとつは、これまでも何度か書いてきましたが、「良いワインづくりはよいブドウづくりから」というわけで、よいブドウが必要です。著者の言う「よいワイン」は、「とても繊細な資質を表現するワイン」であり、「よいブドウ」は「ビオ(有機)栽培のブドウ」です。繊細な資質を表現するワインを造るために、なぜ有機栽培のブドウが必要なのか?明確に書かれているのは、「還元臭」(ワインの栓を開けたときに漂う不快な香り)の多くが殺虫剤に起因しているので、そういったものを栽培中に使用しないということです。また、収穫時のブドウの品質については「ブドウのフェノール成熟や生理面での成熟が必要不可欠」とも書かれています。よく、ワインは糖と酸と香り成分のバランスが重要と言われますが、完成したワインをバランスよく仕上げるためには、そもそもブドウ収穫時のバランスが重要ということですね。明確には書かれていないものの、文脈から、病果(カビが生えているなど)を取り去ることも必要そうです(当たり前か…)。

もうひとつの前提は、「まずは最初の段階として、醸造補助剤を使用」するという点です。醸造補助剤とは、発酵に必要な酵母や乳酸菌を入れたり、清澄のために酵素を使用したり、残留物除去のために活性炭を使ったり…、醸造中の問題を回避するための補助的な資材です。様々な介入もするし、その介入のために時に人工的に造られた醸造補助剤も使ってよしということ。その心は、亜硫酸を使わないで醸造するには、一般的に行われている醸造技術以上の技術が必要で、将来的にこういった醸造補助剤を減らしていく/使わないにしても、その醸造技術を習得するまでの間は、一定程度醸造補助剤を使うことで、ワイン品質の安定化を図る必要があるということのようです。

亜硫酸を使わない=何も添加しないということではないし、亜硫酸を使わないからこそ、一般的な醸造よりもいっそうワインの状態の安定化のためにやらなければならないことがあるということなのでしょう。この著者は、亜硫酸は体に悪いので入れたくない。でも、それ以外の醸造補助剤は基本的にそんなに体に悪いものではないので、品質安定化のために必要。また、人工的に造られたものであろうと、醸造プロセスで自然とできたものであろうと、同じ物質ならば化学的には同じもの…という基本的な考えを持っているので、この前提は理解できます。

いずれにしても、この本を読むことでワイン醸造中と完成後のリスクとその回避方法を知ることができそうです。

マンゴーの香りのするワイン

本日の気象データ
天気:晴れ 降水量:0.0 mm 最低気温:9.4℃ 最高気温:29.1℃ 
平均気温: 19.5℃ 日照時間:762分 (原村アメダス

今日は千曲川ワインアカデミーの講義の日。テイスティング実習でした。飲んだことがあるワインもありましたが、聞いたこともない品種も多く、なかなか面白い体験ができました。今回のテイスティングは品種を当てるゲームのようなものではなく、どういう特徴があるかをキチンと言えるようになるようにすること、またその特徴はどういう醸造プロセスを踏むと出てくるものなのかを知ることが中心だったので、色々と学びが多かったです。

どうしてもワインを飲むと、五味(酸味が強い/弱い、ドライ/甘いなど)や渋みに関する説明をしがちだけれど、それだけでは何も説明していないに等しいんだなぁと。醸造中のワインの味を的確にとらえて、ワインを造っていくということも大事ですが、自分の造ったワインを的確に説明して、お客様に提案していく能力も身に着けなければいけません。その言葉選びも難しいし、そもそも語彙力のなさを痛感しました。

テイスティングと言えば「ブラックチェリー」「マンゴー」「ピーマン」など、別の食品に味を例えて表現することが多いです。私はこの「マンゴー」を聞くたびに、この人マンゴー食べたことあるのかなぁと思ってしまうのです。特に「マンゴーやパパイヤの香り」と言われると、その二つ、全然香り違うじゃん…と。

フィリピンに住んでいたころ、毎日のようにいわゆるトロピカルフルーツ、とりわけ一年中いつでも安価に手に入るマンゴーとパパイヤを食べていたので、一般的な日本人や欧米人よりも、たぶんたくさんのトロピカルフルーツを食べてきました。しかも、日本で時々売っている輸入物のマンゴーなどと違い、現地で食べるマンゴーは完熟状態であることが多いという点も違います(国産の高級マンゴーはまたフィリピンのマンゴーとは全然違う香りがします)。さらに、マンゴーやパパイヤには種類がいっぱいあって、また熟度によっても料理での使われ方が違います。また、ジャングルの中ではなく南国の都市にある高層マンションで食べたとしても、やはり日本とは全く違う空気や雰囲気の中で食べれば、その食べ物に対する印象や味、香りも変わります。

そう、味や香りは、その人の経験や食べるときの雰囲気などによって変わるのです。しかし、もしソムリエが、香りは化学物質なので「このワインは、シトロネロールの香りが強く、このブドウ本来の香りが楽しめます」「このワインはエチルヘキサノエイトの香りが強いですが、この香り、日本酒でも嗅いだことありませんか?」などと説明したならば、まず、このワイン、化学的に合成されたんじゃないかと思ってしまいそうです。だいたい、その物質名、知りませんって人、多いですよね。どうしても、多くの人が共通に知っている言語で説明せざるを得ず、またイメージしやすい言葉を選んで説明することが重要なんですね。

東原和成氏などによって共著で書かれた『ワインの香り』という本では面白い取り組みがされていて、一般的な日本人がわかる食べ物や花などの香りで日本のワインアロマホイールを再構成しています。何に由来する香りなのかがわかると、どうやって醸造されたのかもわかるようになります。ただ、香り成分は別の香り成分と合わさると、違う香りに感じるため、何と何が合わさるとその香りになるかも知らなければなりません。つまり、まずは個別の香り成分そのものの香りを知ること、どうしてその香りが生成されるのかを知ること、そのうえで何と何が合わさるとそう香るのかを知ること、そして実際のワインの中にその香りがあるか探すこと…。ソムリエの訓練って大変なのねぇと思いますが、「ソムリエでじゃなくても、(訓練すれば)ワインの香りを表現できる!」と帯に書いてあるので、きっと普通の人でも訓練すれば、的確に説明できるようになるのでしょう。香りの勉強もしないとなぁ。

 

 

赤ワイン品種 タナ

本日の気象データ
天気:曇り時々雨 降水量:0.0 mm(小雨ありだが、気象庁の公式データでは0.0mm) 最低気温:12.3℃ 最高気温:21.3℃  平均気温: 16.8℃ 日照時間:214分 (原村アメダス

今日は茅野市醸造用ブドウ栽培をしているワイナリーの畑にお邪魔しました。この畑では試験栽培を含めると30種類もの醸造用ブドウを栽培しているそうです。お目当てはピノ・グリとリースリング。特にピノ・グリはこの地域では気候的に合っていて育てやすいとのこと。リースリングも冷涼な地域向きですが、少し樹勢が強いので、ピノ・グリほど育てやすくはないようです。

ここでタナという品種のことを伺いました。この品種はバスクピレネー地方で栽培されていて、ニューワールドではウルグアイ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、ペルー、ボリビアアメリカ…と各地に栽培が広がっているそうです。丈夫で収量が多いのが特徴です。実際、2年目からたくさん収穫できるとのこと。タンニンが強いので、ブレンドに使われることも多いけれど、タナだけで作られた赤ワインもあります。味わい・香りの特徴は、ラズベリー、ドライアプリコットアメリカンチェリーなどのよく熟した果実香、力強いタンニンと豊富な酸味。色が濃く、アルコール度数も高め。長期熟成タイプのワインに仕上がるようです。樽など少し酸素が入る状態で管理すると少しタンニンがマイルドになるかも。本場フランスでは、マイクロオキシジェネーション(酸素注入)をして醸造しているようです。

ピレネー地方(バスク地方)原産と言えば、最近日本で導入が進んでいるプティ・マンサンがあります。ヴィンヤードのあるじに聞いてみると、プティ・マンサンは栽培していないとのこと。ピレネー地方は比較的雨が多く、日本と気候が似ているという話を聞いたことがあります。もちろん、ピレネー地方(バスク地方)の中でも気候はいろいろです。バスク地方の中でも海に近ければ寒暖差があまりなく、地中海性気候なので夏は乾燥している一方、内陸の方に行くと、寒暖差が大きく、雨の量が多くなるという傾向があるようです。また、内陸部では冬は寒いけれど夏は暑いようです。プティ・マンサンを導入している方の話を聞くと、気候変動で暖かくなっているので実験的に導入してみたという話をよく聞きます。ということは、暖かい土地向きなんだろうか。プティ・マンサンとタナの栽培地域は違うのかなぁ。

どちらも単品種で瓶詰めされて売られているものをその辺の酒屋で見かけたことはありませんが、いつか単品種で瓶詰されたワインを見かけたら飲んでみたいですね。

ブドウの葉っぱは何に使えるの?

本日の気象データ
天気:曇り時々雨 降水量:3.5 mm 最低気温:15.5℃ 最高気温:21.0℃ 
平均気温: 17.5℃ 日照時間:7分 (原村アメダス

今日の作業も引き続き誘引作業とわき芽とツルを落とす作業をしました。午後は少し畑で作業ののち、中学校のワイン講座へ。今回は私も少しだけプレゼンをしました。といってもワインの話ではなく、生徒たちから出てきた「ブドウの葉っぱは何に使えるの?」という疑問に答えるというものなんですが。

ブドウの葉は醸造過程では利用しません。私は仕事の関係で、中東や中央アジアの国々に行くことが多かったのですが、これらの国ではブドウの葉を利用したドルマトルコ語アラビア語だとワラカ・イナブ)という料理を作って食べます。

ドルマ(写真は朝日新聞ウェブ記事より)

作り方自体は簡単ですが、ブドウの葉っぱで巻く作業が面倒くさいので、普段食べる料理というより、人を招待して自宅でパーティをしたりするときに作る料理です。お米とひき肉、あれば野菜を混ぜたものをブドウの葉っぱで巻いて、水にレモンとお塩とオリーブオイルを入れてお鍋で炊きます。きっと家庭や地域によっても作り方が違うと思いますが、日本でレシピサイトなどで紹介されているものは結構野菜がたくさん入っています。ただ、現地ではあまり野菜の種類が豊富ではないので、家庭料理としてはお米とひき肉だけのことが多かったです。

この料理の写真を探しているときに、たまたま信州にもブドウの葉を使った料理があることを知りました。ひとつは柿の葉寿司ならぬブドウの葉寿司。柿の葉寿司とよく似ていますが、見た目はどちらかというと柏餅のような感じでした。乗鞍のあたりで食べられているのだとか。ちなみにドルマは葉っぱごと食べますが、ブドウの葉寿司は巻いてあるだけで食べません。もうひとつはブドウの新芽の天ぷら。これは上田・東御あたりでよく食べられているそうですが、山梨でも食べるそうです。食べた方の話を聞くと、ブドウの葉には少し酸味があるのだそう。

コロナ以降、中東に行く機会もなくなってしまいましたが、この授業のおかげでなんだか懐かしく思い出すことができました。

すばらしいワインを造る条件

本日の気象データ
天気:曇り時々雨、夕方以降雨 降水量:5.5 mm 最低気温:16.1℃ 
最高気温:22.4℃  平均気温: 18.5℃ 日照時間:0分 (原村アメダス

今日の作業は引き続き誘引したり、わき芽を落としたり…。午前中は来客がありました。また夕方からは八ヶ岳西麓ワインバレーの生産者の初会合に、まだ圃場もないのに参加して、オブザーバーのつもりで参加したのについつい発言までしてしまいました💦

さて、昨日に引き続き、アルノ・イメレ著『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』を参考に、すばらしいワイン造りについて検討してみたいと思います。

醸造プロセスの話に進む前に、「すばらしいワイン、健康なワイン」をつくる条件として著者が挙げていることを引用します。

最も大事なのは、ブドウの成熟の質である。ついで収穫したブドウの質のポテンシャルを維持するための醸造における心遣い、その次が亜硫酸、マイコトキシン、ヒスタミンがないことである。

マイコトキシンとは、ブドウに付着しているカビ菌から生成される物質で人体にあまりよくない影響を与えるのだとか(潜在的ながんの原因物質になるとの記述も)。特に収穫前に雨が降ることが多い日本では注意が必要です。収穫前に過剰に雨が降ると、果汁を薄めるだけでなく、果実が割れて糸状菌が繁殖します。見た目で明らかにカビが生えているとわからなくても、菌が繁殖してしまうと絞った果汁中にマイコトキシンが含まれてしまうので、醸造前の選果は徹底しなければなりません。

ヒスタミンは、乳酸菌によってつくられるそうです。特に自生の細菌叢を使ってマロラクティック発酵を行うと生成されるとのこと。

この本、自然派ワイン造りを目指す人間にとっては厳しいことがたくさん書かれていて、どういう点に注意し、丁寧なブドウ栽培や醸造管理を行えばいいのかを考えるうえで参考になります。たとえば、

いい加減に管理された草生栽培でも、負荷に対し弱すぎる樹勢、あるいはまた水不足のストレスがあったとしても、腐敗のない美しいブドウをつくるかもしれないし、可能アルコール度数も良い値を示すかもしれない。しかしながら、それらのブドウからつくられたワインは確実性や上質のアロマを欠くことになり受け入れ難いものとなるだろう。ポリフェノールやミネラル類の欠如は、アルコールや亜硫酸の毒性の影響を相殺することができない。

上質のアロマを欠くという点については、こんな記述もありました。要約すると「樹勢が少し強すぎるブドウ樹の腐敗病を減らすために、窒素と結合するイネ科の植物を植えて草生栽培をすると効果があった。葉や枝、ブドウ果実も非常に好ましく成長したけれど、このブドウから造られたワインは青臭い草の香りの特徴があり、好ましくなかった」というもの。青臭い匂いが好きな人もいるかもしれないけれど、やっぱりブドウ品種本来の味が引き出せていないのは、上質のアロマを欠くという評価になるのでしょう。

著者は、亜硫酸以外の醸造添加物については肯定的な意見を持っています。

世間に広まっている意見とは反対に、酵母や乳酸菌、木炭、炭酸カルシウムの添加、さらにアラビアゴムはワインの食品としての品質という面ではむしろポジティブな影響を持っているといえるだろう。

テロワールを表現するという観点から、自然酵母を使って醸造しようと考えていますが、選果基準をどこまで厳しくするか、どこまでの介入をするか(濾過や清澄をするかしないか)、あるいは少量の亜硫酸以外に何を添加するか、添加しないのかという点について、もう少し検討が必要だと改めて感じました。