Adagioな日々

ワインづくり奮闘記 そしてときどきピアノ

亜硫酸を使わないワインの醸造(2)だけど亜硫酸の話

本日の気象データ
天気:晴れ時々曇り、夕方激しい雨 降水量:5.0 mm(最大10分間雨量:3.5 mm)
最低気温:15.3℃ 最高気温:26.4℃  平均気温: 19.8℃ 日照時間:393分(原村アメダス

今日の作業は誘引、主にわき芽を落とす作業。昨日は雨の影響でブドウ樹を触ることができなかったので、かなり伸びていました。

さて、引き続きアルノ・イメレ著『亜硫酸を使わないすばらしいワイン造り』を参考に健全なワイン造りについて検討したいと思います。

この本、亜硫酸を使わないと謳っているのに、全頁の3分の1が亜硫酸についての記述です。しかし、亜硫酸については多くの興味深いことが書かれています。特に意外だったのは、「天然SO2」についての記述でした。天然SO2とは、酵母が発酵する過程で生成するSO2です。天然SO2と添加したSO2は基本的に同じ。ならば、添加しないで「天然SO2」に抗酸化作用を期待すればいいじゃないか…と思ってしまいそうです。しかし、

《天然SO2》の生成を避けることだ。それは外生のSO2に置き換わることはできない。

ですって‼

多くの培養酵母は、この「天然SO2」を生成しない選別された酵母であるそうです。逆に言えば、「天然SO2」を生成するのは自然酵母を利用した場合が多いということです。

どうして「天然SO2」が生成されるのでしょうか?この本には2つの可能性が記載されています。

ひとつは硫黄を含む農薬の添加に由来する可能性。もうひとつは若干複雑なので、まずは引用します。

栄養物の足りないマストでは、酵母は含硫アミノ酸に窒素を求めざるをえず、副産物として亜硫酸を後に残す。

マストとは、発酵前及び発酵中のブドウ果汁/もろみのことです(英語)。酵母が発酵する際にブドウ由来の窒素を栄養素として活用するのですが、ブドウの中に窒素分が少ないとブドウの中にある含硫アミノ酸から窒素を得ようとします。その結果、含硫アミノ酸から亜硫酸ができるのです。つまり、自然酵母=天然SO2を生成するというのは必ずしも正しくなく、窒素に乏しいブドウ果汁だと天然SO2を生成するということになります。

では、なぜ「天然SO2」は添加したSO2に置き換わることはできないのでしょうか?同じSO2なのに…。これについてはこのように記述されています。

酵母はSO2をつくるときに同時にそれに結合するエタナール(アセトアルデヒド)をつくり、SO2を不活性化するからだ。それは単に乳酸菌の活動を遅らせる効果があるだけで、抗酸化効果はない。

結局、「天然SO2」は体に良くない成分は残しつつ、SO2を添加する最大の目的である抗酸化の効果がないということになります。この本の著者の結論は、

亜硫酸の生成は酵母の選択と彼らの「栄養物」の管理を介して避けた方がよい

というもの。要は培養酵母を使ったり、窒素分を多く含んだブドウ果実/果汁を使うか、または醸造中に窒素を添加することによって管理すべきということになります。培養酵母を使わず、窒素の添加をしない選択をするのであれば、ブドウの果実に窒素を十分に含ませてあげられるよう栽培するという一択になってしまいそうです。

もうひとつ亜硫酸に関して興味深いことがありました。それは、フランスのラベルへの表示の仕方です。日本では添加物を表示する決まりになっているので、亜硫酸を添加しなければ、つまり醸造中に生成された「天然SO2」がいくら含まれていようとラベルに表示する必要はありません。しかし、フランスでは10mg/L以上の亜硫酸が含まれていれば、たとえそれが添加されたものでなく、自然に生成されたものであろうと表示義務があります。なので、亜硫酸を添加しないように醸造するならば、自然に生成される亜硫酸の量を10mg/L以下にしなければ、製品としての付加価値を高めることはできないということになります。消費者の側から見れば、毒性が同じならばフランスの表示の方が安心して飲むことができますね。

話が逸れましたが、以前、窒素の役割について、別の角度から書いています。その時の記事はこちらから。

pooh-chan-51.hatenablog.com