Adagioな日々

ワインづくり奮闘記 そしてときどきピアノ

ドブヅルとカリヅル

本日の気象データ

天気:晴れのち曇り 降水量:0.0 mm 最低気温:10.2℃ 最高気温:28.6℃ 
平均気温: 19.7℃ 日照時間:675分 (原村アメダス

今日の作業も芽かきの続き。芽かきをしているときには、じーっとブドウ樹全体を見て、どこを来年のバゲット候補にするかを考え、そこからどの芽を残すか、個々の芽の状態はどうかを見て、その日にかく芽を決めます。じーっと眺めているときに、ふと千曲川ワインアカデミーの講義の中で説明があった「ドブヅルとカリヅル」のことを思い出しました。しかし、講義の内容を反芻してみると、ちゃんと理解できていないということに気づいたので、復習を兼ね、もう一度整理してみることにしました。

芽かき作業中に思い出したので、芽の話かと思われるかもしれませんが、「ツル」というのだから芽ではなく枝の話です。なので、この知識自体、本来は剪定の際に考慮すべきことなのです。ただ、全く芽と関係がないかというとそうでもないのでここで整理することにしました。

枝には品種などに由来する固有のかたちと樹齢や環境の影響によるかたちがあります。後者の後天的に変異した枝のかたちについて、一般にドブヅルと呼ばれているものとカリヅルと呼ばれているものがあります。カリヅルは望ましい枝で、ドブヅルは望ましくない枝です。

そもそも、ドブヅルとカリヅルって何が違うの?

これは、図を見るのが一番わかりやすいです。ネット上にドブヅルとカリヅルの図はないかと探してみましたがないので、手書きしてみました。あまり絵を描くのが上手ではないので、わかりにくくてすみません💦

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ドブヅルの特徴としては、枝はやや大きく、扁平、直線型で節間が長い。節壁は薄い。枝を切って断面を見ると髄が大きい。芽の角度は小さい(鋭角)で副芽が貧弱であることが多い。一方、カリヅルは中ぐらいから細い枝であることが多い。丸い枝で屈曲型、節間がやや狭い。節壁は厚く、断面を見ると髄が小さい。芽の角度は大きい。

ドブヅルになると何が困るの?

ドブヅルになると花ができない場合もあるし、花器を含む芽があっても、成熟が著しく不良で花穂も小さく、品種によっては花ぶるいをおこしてしまうそうです。結果として収量が減り、品質が低下し、ドブヅルを使って苗木を作っても不良苗となってしまうことが問題です。

どうしてドブヅルになってしまうの?

大井上康氏の論文によれば、春にあまり成長しなかったものが急に有利な環境になり、急激に成長した場合、ドブヅルになる傾向があるとのこと。これは枝を減らして樹勢が強くなった場合でも、急に追肥(例えばリン酸カリが不足しがちな樹に急に即効性の窒素を追肥して夏に生長が旺盛になるなど)してもドブヅルになってしまうようです。

では、対策は?

ドブヅルになってしまったら対策はないけれど、予防として、春に多窒素多カリで栽培し、夏(特に8月以降)は少窒素多カリで栽培するとドブヅル発生頻度が少ないそうです。

今回は、主に大井上康(大井上理農学研究所)氏の論文『葡萄枝條の生長型と其の花器の分布密度』を参考にしました。この論文、1940年の園芸学会雑誌に投稿されたもので、旧字体で少し読みづらいですが、2023年にアカデミーで習ったことと内容的にはほとんど同じなので、現在もこの研究結果は否定されていないのではないかと思います。科学技術振興機構J-STAGEからダウンロードできます。